本の話 - 色川武大「麻雀放浪記~青春編・風雲編」

1969 福武書店
色川 武大(阿佐田 哲也)先生

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残念なことに
映画を先に観てしまった

この映画は以前より大好きな作品だったのだが
今回原作を読み
改めて和田誠先生の映像手腕を見直した

あの映像そのものの世界なのだ!
(正確には逆、この原作・青春編を映像化)



もちろん読みながら
映像化される東京は白黒の世界
あの血も涙もない世界だった

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まずは青春編…

戦後間もない混乱期の東京上野

どしゃ降りの雨
雨漏りがひどい廃屋まがいのトタン屋

ひび割れた小さな茶碗に
ギラついた猛者どもの目が集中していた
チンチロ部落だ

そこに
坊や哲こと「私」が乗り込むが…

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チンチロリンで始まるが
メインはタイトルにもなっている麻雀(しかもイカサマ)だ

小生も麻雀を嗜むが
読んでいてあまり参考にならない内容

要は麻雀うんぬんの技術ではなく
「大四喜十枚爆弾」「ニのニの天和」
「大三元積み」などの「積み込み」や「抜き技」の嵐
(やってはいけないイカサマ技の数々)


それを相手にバレないように
どれだけ完成度(テクニック)を高められるか…
チームワーク(通しと言われる暗号)でどれだけ相手からブンどるか…

昨日の敵が今日の仲間
中途半端な麻雀好きには到底分かり得ない
ホンモノの玄人・売人(バイニン)達の
ハッタリ・シノギの世界



この作品の一番の売りは
一癖も二癖もある登場人物
だろう

主人公の坊や哲
上州虎
ドサ健
おりん(男娼)
女衒の達
出目徳
八代ゆき(ママ)
チン六

名前からしてからすでに濃いw

彼らが極限の戦いを繰り広げ
人間の汚さをさらけ出して戦っている姿
その等身大むき出しの欲望が
ぶつかり合う様が実に活き活きしており
読み応えがある


中でも特筆すべきは「ドサ健」だろう
バイニンの中のバイニンっぷりが炸裂しまくる!

人間として有り得ないくらいの非情っぷり

特にクライマックスの
坊や哲・ドサ健・女衒の達・出目徳の頂上決戦

バイニンとはこれほどまでに血も涙もないのかっ!!!!
と痛感させられること間違い無し


最後は正直
映画版の方が印象的だが
バイニンの勝負欲の凄まじさをこれでもか!!
と見せ付けられ終わる

久しぶりに「男」の小説を読ませてもらった
ヌルい小説で飽き飽きしている人にオススメの本

この作品を読んだら
是非とも映画版も観て欲しい

彼らの凄まじさを見事に映像化している
例の空気が伝わるはずだ


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残念ながら「風雲編」には
青春編のような勢いは感じられない

ご都合展開でまとまりに欠けている
のだ

主に関西が舞台なのだが
めちゃくちゃっぷりが半端ない
(関西だからなのだろうか?)

例えば
お坊さんが麻雀好きで境内で徹マンをしてしまう
しかも負けが込んで支払いきれず
借金のカタとして仏像などが運びだされてしまう

関西のバイニンだったらあり得るのだろうか…
凄まじいと言えば凄まじいw


風雲編にも新キャラが登場するのだが
これがちょっと弱い


主人公「坊や哲」につきまとう女「ドテ子」
ドテ子の保護者役のお坊さん「クソ丸」(なんちゅう名前だw)
他に
バリバリの関西人バイニン「タンクロウ」なども出てくるが
全体的にイマイチ印象が薄い

人物が薄い=物語も薄いと言えよう

残念ながら
「風雲編」は正直オススメできない


「青春編」の勢いがなかったら
完読出来なかったかも知れない


先生自身も
「新鮮だったのは第一作だけで、あとは余光だった」と語っている


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このシリーズにはさらに
「激闘編・番外編」と続編がある

先生の最高傑作と言われる
「ドサ健ばくち地獄」
を読むために必要な助走として
全部読んでいきたいと思う


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